先日、ロッテルダムのカフェで、アメリカ人の友人と夜長を過ごしていた。ETHを卒業し、West8で働いている彼は、デルフトのPh.D. を考えているということだった。その大学のProgrammeを議論している内に、とりわけMaster Programmeの国間の違いについて気づいた。幾人からapplicationについて質問を受けることもあるので、ここに記してみる。



ヨーロッパ大陸ではMaster of Science (MSc)が日本の修士課程にあたる。結論からいう。日本と同等とはいえない。アメリカでいうMaster of ArchitectureやイギリスでいうMaster of Scienceとも違う。困ったものだ。ひとえに、「Master」といっても様々。日本語訳が「修士課程」の一つしかないので、こうした困惑がおこる。アメリカを例に、順をおって説明したい。もちろん、これは個人的な体験と見識に基づいたもので、一刀両断できない複雑さがある。簡単には比較できない。むしろ、個々人のbackgroundに応じて、参考程度としてこのtextを見てくれれば、と思う。

まずはアメリカ。ザックバランにいうと次の3つがある。Master of Architecture Degree (professional degree), Master of Advanced Degree (postprofessional degree), and Master of Science。Master of Architectureとは、簡単にいうと、いちから建築を学べるプログラム。米国公認のレジスターアーキテクトの受験資格も得られる。3年間だが、個人の経験に応じて、2年目からの入学も出来る。これは日本でいう学部課程+修士課程の「設計・デザインの教科のみ」を集めてつくられたprogrammeと理解すると分かりやすい。だから3年で済む。日本では構造や設備、施工といった全部の科目をひととおり学ばせるので、倍の6年もかかる。一方、Master of Advancedとは、既にMaster of Architectureにあたる学位を修了しているもの、そして、職業経験があるものに対して、さらなるstep upを与える、いわば、日本でいう「生涯教育」(こういうと、個人的に、なんだか退職後の初老の人たちのイメージがつきまとう。日本語訳がつらいという理由のひとつ)のラインにあたる学位と考えられる。1年から1.5年のものが大半。おもしろいのが、こうしたprogrammeがMasterのDegreeとして称されている点。ただ注意したいのは、前述したMaster of Architectureとは政策的に異なること。レジスターアーキテクトとしての受験資格は通常得られないことは大きくことなる点(もちろん個別の経験に応じて弾性的な措置はある)。自分のブラッシュアップしたいことにfocusできて、短期間で終えられる人にはうってつけのプログラム。だけれど、日本語訳にするとこれも「修士課程」となる。最後にMaster of Science。これは後で述べるけれどイギリスのMScともヨーロッパ大陸国のMScとも異なるので注意。アメリカの場合には、Ph.D.のための準備コースと考えられている。イギリスやオージー諸国、そして香港で言うMPhil. のようなもの。Research Degreeとも言われ、論文を完成させることが最大の条件となっている。1年から2年といった巾で用意されている。

こうして俯瞰してアメリカの「尺度」を得たところで、日本を見てみると、日本の「修士課程」が、アメリカでいうところの「Master of Architecture」の2年次・3年次コース+「Master of Science」の論文を組み合わせたような感じに見えてくる。ただ、「Master of Advanced」というのは、実際に、Master of Architectureの2・3年次と重ねて行われることも多く、一概に独立したコースとも呼べない一方で、Urban DesignやDegital Designに特化したものもあり、煩雑極まりない。MITのSMArchSなんかは、「Master of Advanced」 と「Master of Science」を足して2で割ったようなprogrammeに見える。本当に様々。

視点をイギリスへ移してみたい。ここでもアメリカの「尺度」を頼りに見てみる。イギリスでは、次の3つがある。Diploma Architecture, Master of Science, and Master of Philosophy。結論からいうと、「Diploma」はアメリカのMaster of Architecture、「Master of Science」はpostprofessional degreeでMaseter of Advanced Degree、「Master of Philosophy」 は前述したようにPh.D.の準備コースみたいなものでアメリカのMaster of Scienceと見なせる。イギリス留学経験のある人たちの履歴に、しきりにDiplomaとかかれてあるのは、レジスターアーキテクトの資格を持ちうる(持っているわけではなく)コースを修了したことを示している。ここでも、アメリカと同様に、全ての学位について、修了すれば「修士課程」と訳せてしまう。

最後に、ヨーロパ本土。同様な手続きを踏んで解釈すると、本土では2つ。Master of Science, and Postgraduate Master Degree。「Master of Science」とはアメリカでいうMaster of Architectureの2・3年次でMaster of Advanceまでとはいかないくらいのレベルと考えると分かりやすい。ただ論文を強いられている点と、国家公認のレジスターアーキテクトの資格が「得られる」点が大きく異なる。反面、既にMasterも修了し、就業経験までしている人にとっては、少々「退屈」な部分もみられるコース。実際に、デルフト工科大学でもこの問題はinternational studentsの大きな不平の一つに発展している。彼らのバックグラウンドも様々であるにもかかわらず、アメリカのように、Master of ArchitectureとMaster of Advancedといった区分けはない。したがって、Master の学位もなく、就業経験もない地元の学部卒の学生と一緒にprojectをやらされたりする。実際これはたまらない。あるNorwayからきた優秀な女史が、不満増大にして、かのB-Nieuwsにその実体をさらしていた記事は興味深かった。粗く定義すれば、アメリカで言うMaster of ArchitectureとMaster of Advanced の中間くらいのもの、かもしれない。日本で既に修士を持っている人、ましては就業経験まである人で、さらにその技量を高めたい人は、この「中間」的な教育体制に注意してもらいたい。UrbanismとかReal Estateといった日本にないMScトラックにチャレンジすることはPlusかもしれないけれど。そうした意味合いにおいて、東大や東工大の一年も満たない交換留学制度は賢いのか、と頷いたりもできる。Postgraduate Master Degree については、アメリカやイギリスでも述べたようなMaster of Advanced Degreeにあたる。ただ、こうしたトラックを設けているのはまだ一部(ETHにはMAS:Master of Advanced Studiesという生涯学習コースがあり、EnglishのものではUrban DesignやLandscapeのトラックがある。Architectureはドイツ語必須)。ちなみにデルフト工科大学ではUrbanismに関して2つのpostgraduate courseが用意されている。Architectureはまだない。代わりにPh.D.であるDSD(Delft School of Design)がある。

というわけで、アメリカ、イギリス、ヨーロパ本土と眺めてきたけれど、「修士課程」と一口にいっても様々。そのcomplexな状況だけは伝えられたと思う。もちろん、こうした教育体制のみならず、個々人の経験知とやりたいこと、生活環境、経済的なものなど多くの要因が加算されてくるので、選択作業は困難を要する。その作業はとても汗をかくものであることは僕も知っているだけに、これからヨーロッパ本土を受験される人たちに、少しでも参考になればと思っている。